初孫
- 初孫
二年前の話です。故人は60歳の男性でした。
通夜当日に棺を式場に移すために、自宅へうかがった際のことです。
自宅での最後の出棺の準備をしている際に、ご家族とご親戚の方が話をされているのが聞こえてきました。
それは、故人が亡くなった翌日に、初孫が誕生したという話でした。
その話をうかがっているうちに、初孫が誕生した産婦人科病院がわが社の葬祭会館に近いことがわかりました。
会館に向かう前にお孫さんに対面できないか、御葬家と病院に打診してみたところ、産婦人科病院も事情を汲み取っていただき快諾してくれました。
自宅を出発し、少し遠回りをして産婦人科病院へ向かいました。
寝台車は指定された病院の駐車場に停車しました。そこは病室からいちばん近い場所でした。
看護師の方に抱きかかえられた生まれたばかりのお孫さんが、病室の窓から顔を出しました。元気な男の子です。
寝台車の中で故人の棺のふたを開け、わずかな時間でしたが、故人と孫の対面が実現しました。
「あなた、初孫の顔をよく見てあげてね」
「あなたのおじいちゃんよ。きっとあなたはおじいちゃんの生まれ変わりね」
喪主の奥様は、二つの顔を交互に見ながら、語りかけていました。
会館に向かう寝台車の中で、喪主が深々と頭をさげられました。
「孫は赤ちゃんなので対面した記憶がないし、主人は死んで意識がないけれど、二人がこの世で対面できた事実は消えません。本当にありがとうございました」
奥様は目の涙をぬぐおうとせず、何度も何度も頭を下げてお礼を言われました。
本当に一瞬の出来事でしたが、故人と初孫の対面に協力できたことを心からうれしく思いました。
本来なら、受診科目上あまり縁がないどころか、タブーにさえとられかねない寝台車を駐車場に止めることを快諾してくださった産婦人科病院の方々にも、感謝の思いが強く残った出来事となりました。
29歳 男性 H・K(メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』より)