応援団長
- 応援団長
私が以前担当した、ある若い方の葬儀に関する事柄です。
その方はある有名な大学で応援団長として学生時代を過ごされ、卒業後は東京の企業へ就職して順風満帆な人生を歩んでおられました。しかし不慮の事故により他界され、故郷のこの地へと搬送されてきたのです。
打合せの際も遺族の落胆振りは相当なもので、話をひとつ進めるたびに故人の思い出話で打合せが中断する状況でした。
話を進めていくうち、大学時代の応援団の仲間や後輩たちがバスをチャーターして故人の葬儀に参列するという話をうかがいました。そこで私は、故人の大学時代の遺品を式場に飾ってみてはどうかと提案しました。
ぜひ飾ってほしいということで、自宅から段ボール数箱の遺品をお預かりすることになりました。
会場の設営時に祭壇横の一角を故人のメモリアルコーナーとし、応援団の制服や学生時代の遺品などを展示し、通夜を迎えました。
通夜式には、故人の学生時代の友人や後輩が多数参列され、皆様がそれぞれメモリアルコーナーの遺品を見て想い出に浸っておられました。
通夜式終了後、故人の学生時代のご友人から、翌日の霊柩車出発前に故人に対してエールを送り、校歌、応援歌を合唱したいとの申し入れがありました。
葬儀に応援歌というのは、正直いってどうかと迷いましたが、遺族の方からも大好きだった≪応援≫で送ってやりたいと言われました。
葬儀当日になり、式次第が粛々と進み、いよいよ霊柩車の出棺となったとき、故人の後輩たちが学生服で霊柩車を囲みました。
「フレー、フレー」
大団旗がはためく中、故人に対するエールと校歌の大合唱となりました。
「押忍!」という野太い声で、応援は終わりました。友人たちの目からは、大粒の涙があふれていました。それを誰ひとりぬぐおうとはしません。
すべてを終えた静寂の中、霊柩車は故人を乗せてみな様が見守る中、ゆっくりと出発していきました。
今でもその大学の名前を聞くと、その葬儀の光景が思い出されます。
40歳 男性 K・N (メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』)