手書きの遺影

 遺影写真選びは、遺族の方々にとって、とても大変な仕事です。
 個人らしいものを選びたい、闘病生活が長い故人なら、元気だったころの写真にしてあげたい、となかなか決められません。しかも、限られた時間できめなければならない作業です。
 私が数年前に担当した葬儀でも、親戚の方がアルバムから選んできた写真を前にして、喪主は迷われていました。
 それも遺影に使えるようなものでしたが、喪主は納得がいかない様子です。
「たしか京都旅行のときの写真が……」
 何冊かご自宅から持ってこられたアルバムの中にありましたが、集合写真で顔が小さくて引きのばして使う遺影には不向きです。
 そのとき、故人の姪に当たる若い娘さんが、「私が描いた叔父さんの顔を飾ってもいいですか?」と言われました。
 その絵は鉛筆で描かれたデッサン画で、とても高校生が描いたとは思えない本格的なものでした。
 お見舞いに病院に行かれたときに、モデルになってもらったものだということでした。棺の中へと入れるつもりで持ってこられていたのです。
「父親の照れた表情がよく出ている」と喪主の一言で、絵を遺影にすることになりました。
 まだ完成してはいないとおっしゃいながら、お通夜が始まるギリギリまで彼女が想う故人、遺族が想う故人の顔を描き続け、最後に目元の数本の線、口元のすこしの角度を手直しして、「これがいちばん叔父さんらしい顔!」と言って手渡してくれました。
 そんな想いの込められた故人のデッサン画は通夜・葬儀の間、祭壇の中央で単色系の生花に囲まれ、やさしい笑顔で御遺族・御親族や会葬者に語りかけているように感じられ、とても不思議な温かい気分で葬儀を終えることができました。

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