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おふくろの漬物

 年も押し詰まった、十二月二十九日のお通夜でした。二十八日の深夜、亡くなられたということでした。

 故人は六十代前半の奥様。喪主はご主人、独立した息子さんがいらっしゃいました。
 十月に体調を崩され再入院。そのままの旅立ちでした。
 葬儀当日、出棺時に「おふくろが好きだった漬物を棺に入れてください」と言われました。臭いが出るからと事情を知らない親戚の方々からは反対する声もありましたが、理由をお聞きし、入れることにしました。

 故人は三男四女の次女の方で、必ずしも親の介護をしなければならないという環境ではなかったのですが、母親の介護のために、バスで片道約一時間の道のりを病院に通う日々を送られていたそうです。
 春先、微熱が続いたことがあったのですが、風邪だろうと市販の風邪薬を飲んでおられました。それでも、あまりにも体調がすぐれないので、介護に通われている病院で診察を受けたそうです。 
 後日、ご家族が病院に呼ばれ、担当医より悪性の胃がんとの診断報告を受けました。
 ご家族で相談し、本人には胃潰瘍ということで五月に手術が必要だと説明したそうです。
 ご本人も納得して、五月に胃がんの全摘出手術が行われました。手術は無事に成功し、一時は順調に回復していました。
 九月には退院の許可がおり、自宅療養に切り替わりました。
 退院されて、病院食でないものが食べられることを大変喜ばれていたそうです。故人に何が一番食べたいか聞くと、家で漬けている漬物が食べたいと言われました。
 本当に漬物でいいのかと問い返すと、漬物でいいと。
 「どうして?」と理由を尋ねると、「お前が漬けた漬物が一番おいしい」とご主人が言ってくれたからだといわれたそうです。「ほんとうにうれしかった」と、故人がそのときのことを話されたと聞きました。
 漬物には、ご夫婦だけの思い出があったのです。
 
 ずっと面倒を見てくれた娘がいなくなったからでしょうか、翌年の一月、おばあさんも後を追うように同じ病院で旅立たれたとお聞きしました。
 入院されていても、いつも家族のこと、祖母のことを気にかけていた故人。どんなに体調が悪くても、いつもニコニコしていた故人。辛抱強く、忍耐強く、我慢強かった故人。体がきつくてもぜったいに弱音を吐かなかった故人。
 家族の方々から、そんな故人の話をたくさん聞くことができました。
 「漬物を見るたびに今もよみがえります。お母さん、人生のことを教えてくれて、ほんとうにありがとう。あなたの好きだった漬物は、あなたが愛した夫が今も大切に作り続けていますよ」
 喪主に代わってあいさつされた息子さんの言葉に、私は涙を抑えることができませんでした。

48歳 男性 S・K (メモリアルスタッフが見た、感動の実話集『最期のセレモニー』)

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